年頭挨拶

2024年1月9日
室蘭工業大学長 空閑 良壽

最初に本年1月1日に発生した能登半島地震、2日の羽田空港での事故により、犠牲となられた方々に哀悼の意を表するとともに、被災されたすべての方々に心よりお見舞い申し上げます。本学では現在、学生諸君、教職員の皆様の安否確認を行っているところでございます。

皆さま、明けましておめでとうございます。今年はたいへん緊張した幕開けとなってしまいましたが、私の学長任期も残すところ3ヶ月となりましたので、学長としての9年間を振り返りながら、ご挨拶させていただきたいと思います。

まず教育に関して振り返ると、学長就任が決まった2014年の秋頃は、2016年4月から始まる、法人化後第3期(6年間)の計画を立てるタイミングでした。ここでは、学部教育の大改革を実施するための学部改組が最も大きな計画であり、これは2019年(令和元年)の工学部から理工学部への改組で実現しました。本学は1949年に新制の国立大学になって以来70年間ずっと工学部でありましたが、理工系人材の幅を広げて、横串として全学必修の情報教育を大きく充実させた理工学部へと教育改革を行いました。さらに情報教育に関しては、2021年度からは、数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)を全学で実施、その実績をもって2024年度中には、2022年度からスタートした第4期中期目標・計画でも謳っている応用基礎レベルの申請・認定を目指しています。

私は本学の特徴を一言で表すと、「確かな研究力をベースとした教育力」にあると思います。ここで言う「確かな研究力」というのはエビデンスに基づいた世界水準の研究力であり、世界のTOP50%論文誌に掲載された論文や世界中の研究者から参考に(引用)される論文として発表された研究成果に基づく力です。後述する本学の研究力の充実と広報戦略がうまく噛み合って、2023年春の本学昼間コースの一般入試の倍率は、少なくともデータがある過去20年間の中でダントツの最高倍率となりました。本学の志願者総数も過去最高でした。私は本学が国立の工業大学としての存在感を高めていくためには、私立大学(とりわけ札幌地区)との差別化には、大学院教育の充実が必須と考えています。進学希望の学生諸君からも、出口の産業界・社会からも魅力ある修了生を育てる大学院とし、第4期中に博士前期課程への進学率50%達成を学長ビジョンで掲げました。この意図は、本学に入学し大学生となった皆さんが、本学の大学院へ進学するのが普通の状態となる、そのようないわゆる「大学院大学」としての国立の工業大学としての存在価値を高めたいところにあります。まさにタイミング良く文部科学省は高度情報系人材の育成に舵を切り、国立大学の情報系大学院の拡充を予算化しましたので、本学も教職員一丸となって本予算の獲得を目指し、おかげさまで無事・採択(10年間で7.5億円)されました。情報電子工学専攻(大学院博士前期課程)に、今年4月より共創情報学コース(定員15名)を新設します。新たな優秀な教員の採用も進めています。ぜひとも、大学院進学率50%(300人超え)の起爆剤としたいものです。

博士後期課程支援に関しては、2021年度より「次世代イノベーションを駆動する異分野融合博士人材育成支援プロジェクト」の採択を得て、情報✕専門の異分野融合人材の育成支援を行い、今年度は前期17名(アカデミア希望13名、企業希望4名)、後期18名(アカデミア希望12名、企業希望6名)で、1年間1人当たり220万円の経済的支援と+70 万円の研究支援を行うことができました。こちらも来年度以降も引き続き支援ができるよう、継続プログラムの予算申請行っています。またおかげさまで、運営費交付金共通指標で博士号授与率は3年連続で最高評価を受けています。

つづいて、教育とも関連する研究についてです。学長ビジョンに基づき、「確かな『世界水準』の研究力」を本学の特長とすべく研究支援に力を注いできました。2020年度より学内公募型研究費募集開始(未来創造経費)し、2022年度には4期の中期目標・計画のスタートダッシュを図るべく、内容を一新し、若手研究者支援パッケージも創設しました。2020年度より新たな年俸制を導入し、年齢や在職期間に関わらず業績に応じた職位設定、給与制度とし外部資金を獲得した場合のインセンティブも厚くしました。これにより、優れた若手教員の採用・昇進、教員の多様性も推進しています。

また、「AI 耐災害システム」を担う先端ネットワークシステムラボには、3名の卓越研究員が参加し、2021年度に文部科学大臣表彰若手科学者賞(董冕雄教授)、2023年度には太田香教授も同賞を受賞しました。彼らは複数年、クラリベイト・アナリティクス「高被引用論文著者」に選出されており、「確かな研究力」の裏付けとなる量と質を担保した世界水準の論文創出に大いに貢献しています。さらに太田教授は、2023年度に第5回輝く女性研究者賞(科学技術振興機構理事長賞)や北海道科学技術奨励賞等、多数の賞を獲得しています。昨年4月には本ラボをベースとして、世界TOP水準の研究を行う、コンピュータ科学センター(センター長は太田香教授)を設立し、8月に創立記念シンポジウムを開催しました。本センターでは、これからの世代を担う若手研究者や博士課程の学生諸君を世界TOP水準の研究を行う環境のもとで育てて行きます。また、昨年末には太田教授が、JSTの先端国際共同研究推進事業「次世代のためのASPIRE」の採択も得て、さらなるセンターの充実を推進します。今後、さらなるセンターの発展を目指して、TOPチームのためのASPIREへのチャレンジや文科省の「概算要求(教育研究組織改革)」への採択を得たいものです。

また本学の「確かな研究力」の裏付けの一つとして、私は「大学ランキング」の積極的活用を行なってきました。例えば世界大学ランキングの代表的なものとして、Times Higher Education (THE)の世界大学ランキングは6年連続のランキング入りを果たし、世界で1501+位となりました。また、QSアジア大学ランキングにおいても、2年連続でランクイン(501〜550位)しました。この2つ世界の代表的大学ランキングにランクインしているのも、道内では本学と北海道大学の2大学のみであり、本学の研究力が光っています。また同窓生の皆様の頑張りとしては、技術士と一級建築士合格者数はそれぞれ国立工業系大学では全国3位と5位と好成績となっており、本学志願者などをターゲットとした本学の大学ランキング2024年版ポスターにまとめてアピールしています。このような本学教員や学生諸君、そして同窓生の活躍が本学の広報戦略との上手く噛み合って、本学のブランド力のアップに貢献し、過去最高の志願者確保につながったと分析しています。

加えて、室蘭工業大学が北海道、室蘭の地に存在し続ける意義として、北海道との地域共創があります。室蘭の隣町の伊達市をフィールドとした内閣府SIP事業への採択(昨年10月、代表・山中真也教授)、白糠町や白老町をフィールドとし、アイヌ文化の知恵を活用するJST共創の場事業への採択(代表・徳楽清孝教授、現在本格型への申請中)、大樹町でのインターステラテクノロジズ社と共同した低コストロケットの開発など、北海道をフィールドとして、本学の研究力を活かす社会との共創事業に力を注いでいます。

(もう一つ、私が学長就任以来、思い描いていた私の母校でもある東京工業大学との協力関係の実現についてご報告します。)昨年末に北海道、東京、九州と日本を縦断する形で位置する3つの国立の工業大学(室蘭工業大学、東京工業大学、九州工業大学)による三工業大学が、産学連携、そして理工系人材育成の推進の観点から、三工大連携を締結いたしました。東京工業大学の大岡山キャンパスで、キックオフシンポジウムを開催し、三工業大学の共通する強みである、フード&ヘルス、AI、航空・宇宙分野で3つの分科会を立ち上げて、研究紹介を行いました。今後まずは上記のテーマより、3つの工業大学の研究が協働することにより、具体化・発展して実現し、日本全体そして世界へ競争力を持って、アピールしていくことを期待しています。

最後になりますが、昨年末(12月22日)に文科省から通達があった今年度の概算要求事項の結果についてお知らせいたします。まず、施設整備予算については令和5年度補正予算で情報棟(V棟)の全面改修予算がつきました。ハードウエアの面から、本学の情報教育の充実推進への大きな追い風です。施設整備予算以外では、MONOづくりみらい共創機構には継続分の予算内示を受けましたほか、令和5年度補正予算の基盤的設備等整備分でカーボンポジティブラボの馬渡准教授グループの「バイオマスメタカーボン探索・追跡・評価システム」が既に採択されています。

「共通指標(基幹経費分)」に基づく評価配分(国立大学全体で約10%相当の1000億円)に関しては、本学の評価結果は、22項目のうち10項目が配分率100%以上でしたが、2億4,900万円の評価対象額に対して、2億4,600万円で約300万円の減少となっています。昨年度結果と比較すると、項目ごとに若干の凸凹はあるものの、全体の配分率マイナス分は1.40%(令和5年度0.99%)と令和5年度より、僅かに減少幅が大きくなったものの、ほぼ評価分の獲得はできたと考えています。関係の皆様、ご協力ありがとうございました。

それでは、2024年も教職員の皆様、そして執行部一丸となって、室蘭工業大学のさらなる発展に向けて頑張りましょう。

以上、私からの2024年の年頭のご挨拶とさせていただきます。