研究インタビュー特集 「宇宙・モビリティ」
× 「室蘭工業大学」

かつて人が空を見上げて宇宙に想いを馳せていた時代から、現在は宇宙に衛星を配し様々な情報を地球へもたらす時代へと進化を遂げています。
室蘭工業大学では航空宇宙用エンジンの研究開発や、
多様なビッグデータを用いた都市や移動のデザインといった人々の暮らしを支える研究を行っています。
ここでは宇宙と地上という、2つのスペースに関連する研究を行う二人の教授にお話を伺いました。

MEMBER

教授
内海 政春ウチウミ マサハル
研究分野 航空宇宙工学・ロケットエンジン
教授
有村 幹治アリムラ ミキハル
研究分野 土木計画学・交通工学
01 お二人は北海道大樹町を舞台に同じフィールドの研究分野を持つと伺いました。
今回は「スペースコネクション」をテーマに、
お二人の研究内容とそのお考えをお聞かせいただければと思います。
地上から宇宙へ人類の空間を拡張し
宇宙から地上へ還元を

内海教授:私は航空宇宙システム工学という分野で、有村先生は都市交通デザインの分野で研究をしていますが、この2つは『移動体』というキーワードで繋がっています。今までは車でも電車でも歩きでも、人は地球の表面を二次元的に移動してきました。
そして20世紀に入り次のステップとして人は飛行機や宇宙船といった三次元移動体にシフトします。イーロン・マスク氏が創設した「スペースX」というアメリカの宇宙開発の民間企業は、2020年に自社ロケットで宇宙ステーションへの有人往来を実現しました。
このようにあと10年や20年もすれば宇宙旅客機やスペースプレーンが実現・発展し、宇宙がカジュアル化するんです。火星で新婚旅行を挙げたり、身体に負荷が掛からない無重力空間で理学療法を行ったり。国でも宇宙利用の拡大や将来の宇宙輸送をどうするかという議論を真剣にしています。
そんな中、室工大では2020年10月、大樹町に「室工大航空宇宙機システム研究センターサテライトオフィス」を開設しました。堀江貴文氏が創設したインターステラテクノロジズ㈱との共同研究による宇宙ロケットの開発や、小型超音速航空機に関連した実験などがより加速していくと考えています。


有村教授:地表のモビリティという観点でいえば近頃はMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)といわれる、タクシーやバス、LRTなど様々な交通事業者の予約や決済といったサービス統合の試みが世界的に始まっています。
また近年はICTの発展により車両の自動運転化も進みました。大樹町では2019年、国や自治体と連携して町民がバスの自動運転サービスを実際に利用する長期実証実験を行いました。これが実現するとドライバーの高齢化による人員不足の解消に寄与できるほか、都市間バスなど他の交通手段へ接続することにより、人の移動空間をより拡大することが可能になります。
ただ自動運転は位置情報を提供する人工衛星があって初めてできますので、そこで内海先生のロケット分野の発展が必要となりますよね。大樹町では自動運転の実証実験が行われましたが、将来的にはロケットなどの宇宙空間の移動手段とモビリティという意味でシームレスに繋がります。ここで「スペースコネクション」というテーマによって二つが繋がるのですね。

内海教授:今は世界に何万基もの人工衛星を打ち上げて、宇宙から情報を収集する時代です。そこで重要になってくるのが、宇宙空間にインフラをどう整備していくか。例えば携帯電話用の無線通信にしても、宇宙から飛ばせるようになれば、山間部や過疎部などのように地上アンテナがない地域でも電波が繋がらないという状況が解消されます。
航空機システムに関しては、欧米にその技術と権利を握られてしまいましたが、宇宙に関して日本は遅れを取ってはいけない。先ほども言いましたが、誰でも宇宙空間に行ける時代がやってくる。じゃあその宇宙空間への日本の玄関口を北海道にも作りたいね、という発想から私たちが進めているのが「北海道スペースポート計画」で、宇宙船の発着場をここ北海道に作りたいと思っています。人が集い社会が形成され、新しい文化が生まれてくると思います。


有村教授:この先、人の可住空間が宇宙に広がるという意味では土木工学的にも繋がりがありますし、多大な恩恵も受けています。
少人口化が問題になっている昨今で、それでも社会をスマートに維持していくには宇宙空間からの助力が必要不可欠です。

私はビッグデータを扱った研究もしていますが、位置情報のデータは大部分が宇宙から送られてきます。都市計画でも精緻な計画がつくれますし、もちろん自動運転などの技術への応用もそうです。都市のデータ基盤としての位置情報等が組み合わさってくると応用分野の幅も広がっていきます。
逆にその利用の方法を考えて研究を進めていかないと、人が集団で住む空間の都市は時代の変化に適応していけないのです。そのような時代が来た時に対応できる技術を備えていようね、というのは我々の共通している部分ですね。

02 ご自身の研究や専攻分野の将来について、
今後の展望などがあれば教えてください。
先見の明を研ぎ澄まし
今ある技術を活用する

内海教授:私はロケットエンジンの研究をしていまして、なかでも高速ターボ機械の典型といえるロケットターボポンプの体系的な研究開発は、大学においては特徴的であると思います。
また先日、超小型人工衛星を宇宙空間で展開・計測する技術実証の機会も発表いたしまして、これが成功すれば世界初となります。今後はそういった世界初の技術を日本から発信していかなければ、と思っています。
また北海道には広大な敷地があり、航空宇宙をテーマとした研究開発や飛行実証の環境はとても恵まれています。そのような特徴を活かして、実機全体や社会実装を見据えた研究開発を行っていきたいと思っています。民間企業などとの共同研究を活発に行って、この地から革新的なモノを作りだしていきたいですね。
北海道の地から、北海道で開発されたロケットで、北海道で製作された人工衛星を、道民のために打ち上げたいという希望を持っています。すべてが北海道で完結する道民衛星、道産子衛星の打ち上げプロジェクトです。

有村教授:自分の専門分野である都市や交通計画に関しては、既に発生している少人口化社会への対応を考えなければなりません。例えば北海道では2020年から2040年までの20年間に、2020年までの過去20年間で発生した人口減少の倍の速度で人口減が進むと予測されています。
このような状況で私たちはどのように幸せに暮らすことができるでしょうか。自動運転技術もそうですが、新技術を上手に使うと中心都市から離れて住んでいても生活が維持でき、定住もしやすい社会を創れるかもしれません。
一方で都市に目を向けると、人口減に伴う空き家の発生等の問題が生じています。これは高度経済成長期に市街地が拡張したまま人口が減少に転じたことが要因の一つですが、これに対して都市をコンパクト化させる研究も行っています。
我々としては、ビッグデータの応用は勿論ですが、自動運転技術やMaaS等の新しい技術を取り入れた都市や地域の問題解決を目指したいと思います。

03 これから室蘭工業大学への入学を希望する学生へ
望むものを教えてください。
信念と夢を持って
自身のセンスも磨く
内海教授:やはり意志や夢を持っている方ですね。私の研究室の学生などには航空関係の企業やロケット関係の企業へ就職する道を選ぶ人が多くいます。そういった意味で、自分が何をやりたいかという意志をハッキリと持っている人。自分は将来宇宙開発に携わりたいんだ、という信念や夢を持っている方は大歓迎です。
有村教授:いろいろな自然現象に興味を持って欲しいです。「センスオブワンダー」という言葉があります。雪の結晶を見て直感的に感動を覚えるような感覚のことですが、そういったセンスを持っている人、またその感覚をどのように人の幸せに繋げていくのかというところを考えられる人は工学に向いているのかなと思います。
※内容は2020年12月にインタビューしたものです。