学位記授与式 告辞

 今年度は新型コロナウイルス感染症対策の影響で3回に分けた学位記授与式となりました。学部卒業生、大学院修了生の皆様の、卒業・修了の晴れ舞台となる学位記授与式を心待ちにされていたご両親、ご家族を初め関係者の皆様にご出席いただくことは叶わず、心よりお詫び申し上げます。

 さて本日、晴れて学部を卒業し学士(工学)の学位を得られた方は617名、大学院博士前期課程を修了し修士(工学)の学位を取得された方は216名、また大学院博士後期課程を修了し博士(工学)の学位を授与された方は12名です。そして卒業生・修了生の中には外国人留学生が53名おられます。これら845名の皆さんに、学位の取得並びに卒業・修了を心からお祝い申し上げます。また皆さんの入学から今日まで、修学を励まし支えてこられたご家族並びに関係者の方々に敬意とご祝辞を申し上げます。学位記授与に当たり、卒業生・修了生の皆さんに、私からの期待とメッセージを述べさせていただきます。

 皆さんは2年を超える長期間にわたって、コロナ禍で学修に励まれてきました。本学においても、オンライン教育の強みも取り入れた形の対面とリモートのハイブリッド型の授業や研究室活動を続けてまいりました。理工系の大学では、やはりキャンパス内での対面での実験や実習や教育が最重要と考えていますが、コロナが落ち着いた後にも、大学においても、産業界や社会においてもDX(Digital Transformation)が進行し、新しい形での活動形態となると思われます。皆さんの対応力が問われることになるでしょう。学内の学生諸君の学修の進捗状況やもしかすると教員や職員のリモート環境やデジタル化、DXへの対応状況には、上手に対応できている方と苦労されている方との、2極化や格差が広がってきているという新たな課題も出てきている感があります。

 このような状況の下、皆さんは大学という社会からプロテクトされた環境から、社会・産業界の先が見えにくい荒波のなかに旅立つことになります。十分な覚悟と準備が整っているでしょうか。今回のコロナ禍では、繰り返しになりますが、これまで以上に対応力が問われます。皆さんは、この学生時代に2年以上に渡って新型コロナウイルス対策下の状況で、授業、卒業研究、修士論文、博士論文の研究を進めてこられました。リモートでの授業や指導教員の先生とのディスカッション、そして研究室での実験やグループワークなど、これまでの大学での学びのスタイルとは異なる、新たな環境のなかで、大変な努力とこの度の制限がかかった状況での、卒業研究や大学院での研究課題に取り組んだ課題解決の経験は、皆さんにとって、きっと大変貴重な体験•宝となってかえってきます。答えがあるかどうかすらわからない問題・課題と立ち向かい、答えに近づく、チャレンジすることを大変な勇気を持って経験されたことと思います。今回の大変な時期に皆さんが、本学での卒業研究や大学院での研究に取り組んだ経験を是非とも、今後の活動に活かしてください。

 さて私は本学の強みは、「確かな研究力をベースとした教育力」にあると強く信じています。主に研究の観点からは、THEの世界大学ランキングには、国立大学は57校がランクインし、本学は4年連続のランクイン(1201+位)となりました(2021.9発表)。さらには嬉しいことに、QSアジア大学ランキングにおいても、本学は初めて401〜450位にランクインしました(2021.11発表)。この2つ世界の代表的大学ランキングにランクインしている大学は、道内では本学と北海道大学の2大学のみであり、本学教員の研究力が光っています。また本学卒業生の企業からの評価も高く、企業の人事担当者から見た大学イメージ調査においては、北海道内の大学で第3位となっています(日経HR2022版)。まさに、エビデンスに基づいた「確かな研究力をベースとした教育力」の成果のひとつだと考えます。

 ここで人生の先輩の一人として、私の経験を一つご紹介します。私は室蘭工大に当時の応用化学科に助教授として着任して以来、25年半になります。既に、大学執行部の仕事の方が長くなり、その間、本学の様々な計画・施策の実施に携わってきました。この間、私は極力、EBPM (Evidence Based Policy Making)を心がけていました。大学運営において、確かなエビデンスが示せて、プラスになる成果や実現可能性が高い計画の立案と実施を心がけることで、教職員の皆さんが納得した協力を期待できることになります。ただ、実際には、解決すべき課題が多すぎ、十分なエビデンスを用意できるとは限りません。その際には、少ないエビデンスから判断する決断力が必要となります。このときに、保守的に行くか積極的にでるか、「攻めと守りのバランス感覚」が重要となります。

 少し話がそれますが、私は将棋が好きで最近はすっかりAbemaTVなどの「観る将」になっています。谷川浩司十七世名人の藤井聡太論を読みますとAIの出現により、従来、皆がお手本として信じていた定石は過去の物となり、以前にも増してAIに裏付けされた「攻めと守りのバランス感覚」が問われるようになったそうです。大学運営に『A I』は、まだなかなか使えませんので、「攻めと守りのバランス感覚」を磨くために、学長になっても日々、宿題と勉強ですね。個人的には藤井聡太君(竜王・5冠)の頭の中がどのようになっているのか? 将棋の盤面が頭の中で浮かんでいるのではなく、どうも7六歩、2四歩とかいわゆる記号、コードとして流れているように浮かんでいる?ようですが、たいへん興味深いですね。

 さて、話を戻して、「攻めと守りのバランス感覚」をいかに磨くかです。実は私の場合、学生時代、とりわけ卒業論文や大学院での研究のために独学で学んだ、私の専門の化学とは直接関係がない、確率•統計学•情報の基礎がいまだに大変役に立っています。学生時代の経験を活かしたEBPMですね。人生100年時代です。皆さんも、本学での貴重な経験と身につけた専門知識を一つのベースとして、社会で活躍するために、さらに専門を深めたり、あるいは幅を拡げ、新たな先端分野を学んだり、社会・産業の状況に応じて学び続けて、これからの人生を有意義に過ごすための準備をしてほしいと思います。

 最後になりますが、皆さんの周りにはたくさんの応援団、仲間がいます。

 本学の同窓生は皆さんも加えると既に述べ約41,000人に達しており、産業界・社会で実績を残して、活躍している先輩たちが皆さんを温かい目で見守っています。この歴史ある卒業生の社会での活躍とそこからの応援、そして室蘭工業大学で共に学んだ皆さんの経験こそが、これからの皆さんの力となります。

 室蘭工業大学は、これからも皆さんと共に、日本のそして世界の輝かしい未来を築くべく、教育と研究そして社会への貢献を大きな柱として歩みます。皆様のご健勝とこれからの輝かしい未来でのご活躍を祈念し、学長告辞といたします。

令和4年3月23日
室蘭工業大学学長 空閑良壽