学位記授与式 告辞

 今年度は新型コロナウイルス感染症対策の影響で学部と大学院を分けた学位記授与式となりました。学部卒業生の皆さん、そしてご家族の皆様に、4年ぶりにご出席いただくことが実現し、大変嬉しく思います。さて今年は、理工学部になって第1期の卒業生の皆さんが誕生します。本日、晴れて本学を卒業し学士(工学)418名、そして学士(理工学)の学位を得られた方は192名、合わせて610名、そして卒業生の中には外国人留学生が33名おられます。学位の取得並びに卒業を心からお祝い申し上げます。また皆さんの入学から今日まで、修学を励まし支えてこられたご家族並びに関係者の方々に敬意とご祝辞を申し上げます。学位記授与に当たり、卒業生の皆さんに、私からの期待とメッセージを述べさせていただきます。

 皆さんは3年を超える長期間にわたって、コロナ禍で学修に励まれてきました。本学においても、オンライン教育の強みも取り入れた形の対面とリモートのハイブリッド型の授業や研究室活動を余儀なくされる時間が多くございました。理工系の大学では、やはりキャンパス内での対面での実験、実習及び教育が最重要と考えています。この間に本学においても、DXが進行し、リモートやオンライン環境を整えた場での、教育・研究活動が行われ、産業界や社会においても、コロナが落ち着いた後にも、引き続き、ニューノーマルでの活動形態となると思われます。ここでは、皆さんは本学で培った対応力が問われることになるでしょう。リモートやオンライン環境の下での、皆さんの学修やキャンパスでの活動は、周りに協働してくれる仲間がいなかったり、指導する教員や職員との直接的な接触の機会が少なくなってしまいました。その結果、自ら能動的に学修や行動を起こす、自律的な活動が大変重要となり、そのような対応ができる皆さんと不得意な方との間に、新たな格差が広がってしまうという課題が浮かび上がりました。実は、これは学生諸君だけではなく、教職員全体に対しても同様な課題であります。

 卒業生の皆さんの約60%は就職という形で、本学から新たな社会・産業界という荒波のなかに旅立つことになります。大学という社会からプロテクトされた学びの環境から、社会・産業界という先が見えにくく、より対応力が求められ、自律した能動的な活動が求められる環境へと飛び込んで行くことになります。皆さんは、その十分な覚悟と準備が整っているでしょうか。まして、今後のポストコロナの時代に向けては、先ほど述べましたようにこれまで以上に対応力が問われます。今後、皆さんが遭遇する課題・問題には、例えばコロナ禍の対応のようにどのような手段・対策が正解なのか、そもそもどのような「解」があるかわからない課題が待ち受けています。これは残りの40%強の大学院博士前期課程に進学される皆さんも同様です。

 皆さんは、新型コロナウイルス対策下のリモートと対面のハイブリッドな環境で、授業、卒業研究を進めてこられました。制限がかかった状況での大変な努力のもと、卒業研究を筆頭とする課題に取り組んだ経験は、皆さんにとって、きっと大変貴重な体験であり、かつ宝となって返ってきます。答えがあるかどうかすらわからない問題・課題と立ち向かい、答えに近づく、チャレンジすることを大変な勇気を持って経験されたことと思います。この皆さんの経験を是非、今後の活動に活かしてください。

 人生の先輩の一人として、私の経験を一つ、二つご紹介します。私は室蘭工業大学に1996年に当時の応用化学科に助教授として着任しましたが、副学長時代も含めると大学執行部の仕事の方が14年と長くなり、その間、本学の様々な計画・施策の実施に携わってきました。皆さん、EBPMという言葉を聞かれたことがありますか? 私は大学運営に関して、極力、EBPM (Evidence Based Policy Making)を心がけていました。確かなエビデンスが示せて、プラスになる成果や実現可能性が高い計画の立案と実施を心がけることで、教職員の皆さんに計画を納得いただいた上で、その協力を期待できることになるからです。

 私の専門は化学工学でしたが、学生時代に卒業研究や修士論文の研究で、手法として確率統計を用いる必要性があり、独学で確率統計を一生懸命勉強しました。それがきっかけで、本学においても教員として、当時の応用化学の学生さんに対して、確率統計の授業を持てるくらいには、身につけることができました。あと10年、教授時代(研究も行う期間という意味ですが)が長ければ、AIやビックデータの取り扱いも勉強して、研究に活かせたのではないかなと思っていて、現在の先生方が羨ましいくらいです。私の場合は、「確率統計」の勉強止まりですが、それでも大学運営上の、EBPM (Evidence Based Policy Making)には十分に役に立っていると思います。人生100年時代です。学び直しも重要ですが、それでもやはり若い頃に学んだ、とりわけ卒業論文や大学院での研究のために自ら学んだ、化学とは直接関係がない、確率・統計学・情報の基礎はいまだに大変役に立っています。学生時代の経験を活かしたEBPMですね。皆さんも、本学での貴重な経験と身につけた専門知識を一つのベースとして、社会で活躍するために、さらに専門を深めたり、あるいは幅を拡げ、新たな先端分野を学んだり、社会・産業の状況に応じて学び続けて、これからの人生を有意義に過ごすための準備をしてほしいと思います。このように、一つ目は、皆さんもEBPMの考え方を取り入れて計画、実行してほしいということです。

 もう一つの大事なこととして、最近私が力を入れている大学の広報を通して感じていることですが、自分の強みを知り、上手に発信して行くということです。皆さん、本学の強みはなんだと思いますか?私が一生懸命発信しているのは、本学の強みは「確かな研究力をベースとした教育力」です。

 主に研究の観点からは、THEの世界大学ランキングには、国立大学は57校がランクインし、本学は5年連続のランクイン(1501+位)となりました(2022.10発表)。また嬉しいことに、QSアジア大学ランキングにおいても、本学は2年連続でランクイン(451〜500位)しました(2022.11発表)。この2つ世界の代表的大学ランキングにランクインしている大学は、道内では本学と北海道大学の2大学のみであり、本学教員の研究力が光っています。また本学卒業生の企業からの評価も高く、企業の人事担当者から見た大学イメージ調査においては、北海道内の大学で第3位となっています(日経HR2023版)。さらに自分の子どもに入学してほしい大学ランキング、北海道・東北地域で第5位(朝日新聞出版「AERAムック」大学ランキング2023)と、まさに、エビデンスに基づいた「確かな研究力をベースとした教育力」の成果のひとつだと考えます。このような確かな研究力に支えられた教育力を、学生諸君や同窓会の皆様など多くの人の力もお借りして、上手に発信して行くことが、重要だと考えています。

 本日は学位記授与式なので、少し観点がずれてしまうかもしれませんが、私は室蘭工業大学にとって、優秀な入学志願者の確保は第一優先課題と捉えています。今年の(昼間コース)4月入学者の志願倍率は、手元にデータがある過去20年間の中で、ダントツの最高倍率となりました。詳しい分析はこれからですが、道外志願者の増加が大きなドライビングフォースとなっています。本学のブランド力のupとそれに気づいてもらうための広報が上手く噛み合った一つの成果と捉えています。このことは、少しずつですが、本学の強みを上手く広報・発信し、本学の志願者予備軍に伝えることができてきて、道内のみならず、道外の志願者層に届き始めていると期待しているところです。

 最後になりますが、皆さんの周りにはたくさんの応援団、仲間がいます。

 本学の同窓生は皆さんも加えると既に述べ40,000人に達しており、産業界・社会で実績を残して、活躍している先輩たちが皆さんを温かい目で見守っています。この歴史ある卒業生の社会での活躍とそこからの応援、そして室蘭工業大学で共に学んだ皆さんの経験こそが、これからの皆さんの力となります。

 室蘭工業大学は、これからも皆さんと共に、日本のそして世界の輝かしい未来を築くべく、教育と研究そして社会への貢献を大きな柱として歩みます。皆様のご健勝とこれからの輝かしい未来でのご活躍を祈念し、学長告辞といたします。

令和5年3月23日
室蘭工業大学学長 空閑良壽