1992年、日本人初の宇宙飛行士としてスペースシャトルに搭乗した毛利衛氏。北海道新聞(令和6年12月14日掲載)の特別対談において、現在も最先端の科学技術の普及と研究者の人材育成に努めている毛利氏と室蘭工業大学 松田瑞史学長に、これからの社会が求める高度理工系人材について語り合っていただきました。
毛利:貴学の航空宇宙工学分野は、国内唯一の実験設備を有し、新たな価値を生み出すのに相応しい環境ですね。
松田:本学では、今後発展が見込まれる航空宇宙産業に貢献できる人材の育成にも力を入れています。航空宇宙工学コースの教授陣はJAXAや重工メーカー出身者が多く、学生は航空宇宙工学の根幹となる専門知識を修得できます。また、航空宇宙機システム研究センターでは、北海道の広大な土地を活かした大型研究プロジェクトを実施しております。中でも、1t級までのロケットエンジン試験が可能な白老エンジン実験場には、800mの滑走路や国内唯一の高速走行軌道設備などを有し、JAXAや民間企業との共同研究にも活用されています。
毛利:国は今後、宇宙関係予算を大幅に増やし、企業や大学の技術開発を支援すると発表しているので、学生や研究者にとって良いチャンスですね。将来的にどう宇宙を利用していくか、どうビジネスにつなげて社会に還元できるかを考えていくとよいですね。室蘭工業大学が白老エンジン実験場を有していることに大きな価値があると思います。
毛利:経営者の多くが女性活用を、これからの企業発展に直結すると考えています。日本のためにも理工系女子学生がぜひ増加してほしいですね。
松田:本学の女子入学者の割合は約14%で、少ない状況です。この状況を打開するため、2025年度入試から、総合型選抜で女子を対象とする「女子枠」を新設しました。将来的に女子学生30%を目指し、多くの女性技術者や研究者を世に送り出したいと思っています。
毛利:学生たちの親御さんにとって、最も心配なのは就職先です。北海道であれば次世代半導体の製造を目指すラピダス社の工場建設が進み、道内の産業構造は大きく変わると思います。男女を問わず仕事も増えていくでしょう。
松田:近年、学生たちには大学院への進学を勧めるようにしています。大学院は、大企業への就職など学部卒を上回る就職率の実績があり、学生の将来の可能性を広げることができます。大学院博士前期課程への進学率50%以上を目指しています。
毛利:大切なことですね。半導体産業分野で日本が世界に存在感を示すなら、学部卒の知識や経験では足りません。日本の企業を支えるために、今や大学院進学は必須ですし、就職にも有利ですね。
松田:これからの時代、専門分野だけでなく、数理・データサイエンス・AIなどの素養をもつ人材も求められるため、理工系専門分野のカリキュラムに加え、全学必修の情報教育も行っています。「専門」×「情報」という掛け算で知見や発想が増えていきます。
毛利:生成AIはとても便利で、大学の課題などで自分が考える程度の文章は簡単に作れます。しかしあくまで道具の一つなので、AIで自分に何ができるのか、自身の存在意義を考える場が大学だと思います。
松田:いつも学生たちには、社会に出たときに自分に何ができるかを意識しながら学んでほしいと伝えています。2019年に工学部から理工学部に改組して以降、「ものづくり」に加えて「価値づくり」にも力を入れています。本学は「真なる探究心から未来の価値づくりを。」をキャッチコピーに掲げました。5年、10年先の社会に向けて、社会課題解決につながる探究心を育み、産業の芽を興せるような高度理工系人材の育成に取り組んでいきたいです。
毛利:モノがない時代ならモノが欲しくなりますし、充足すると今度は違う価値が欲しくなります。社会が評価した価値こそが、社会が未来に生き延びるための価値だといえます。地域社会と地球社会どちらも大切です。受験生を含む若い世代の皆さんには、自分の住む地域と人類社会が生き延びるための価値づくりにぜひ挑戦してほしいです。室蘭工業大学には自分を試す面白い学びがたくさんありますね。
松田:室蘭工業大学全体に「価値づくり」が浸透するように、柔軟に迅速に変革を進めていきます。