令和7年度3月期学位記授与式 告辞

 春分を迎えて春を感じ始めた本日、ご来賓並びに名誉教授のご列席のもと、学部卒業生、大学院修了生およびご家族の皆さまとともに令和7年度学位記授与式を行いますことは、室蘭工業大学にとりましてまことに慶ばしく、ご列席の皆さまと共に、この喜びを分かち合いたいと存じます。

 本日、晴れて学部を卒業し学士(工学)及び学士(理工学)の学位を得られた方は、337名及び225名で、合わせて562名。そして卒業生の中には外国人留学生が13名おられます。また、本学大学院を修了し、修士(工学)の学位と、博士(工学)の学位を取得された方はそれぞれ、220名と10名。そしてその修了生の中には、外国人留学生が12名おられます。

 これら792名の皆さんの、学位の取得並びに卒業・修了をお祝い申し上げますとともに、皆さんの入学から今日まで、修学を励まし支えてこられたご家族並びに関係者の方々に、心からの敬意とご祝辞を申し上げます。

 学位記授与式に当たり、皆さんがこれから飛び出す新たな社会について少し想いをめぐらし、私からの期待とメッセージを述べさせていただきます。

 思えば昨年からの一年は、国外ではやっとパレスチナ・ガザ地区における停戦合意やウクライナ和平への動きが見られはじめた一方、米国トランプ政権による、ベネズエラやイランへの軍事介入、そして相互関税発動等により、世界に複雑で大きな混乱が生じました。また、日本国内でも、今後に対して大きな転換点となるような大きな出来事が相次ぎ、政治的には、参院選で与党が一旦過半数割れとなり、与党組換えの末、高市早苗氏が初の女性首相に就任。その後の衆議院選挙にて自民党の歴史的な圧勝へとつながりました。社会的には、夏の平均気温が史上最高を記録したのをはじめ、コメ価格の高騰とそれに伴う政府備蓄米の放出、大阪・関西万博の予想外の盛り上がり、そして、昨年の漢字にも選ばれた、熊(クマ)の市街地への出没増加と被害の深刻化など、想定外のニュースが相次ぎ、種々の社会課題が我々に突き付けられました。

 これら社会課題への対応には、一般的には、これが正解というような明快な解を選択することは難しく、そもそも解があるかどうかもわかりません。数年先あるいはもっと時間を経ないと結論が出ないものもあるでしょう。

 皆さんの、高校までの、あるいは大学入学当初の学びにおける課題・問題には、明確な答え、模範解答がありましたが、その後の課題解決型の授業や、自ら考える授業や演習、実験レポート考察では、そして学生時代の学びの仕上げとなる卒業研究や大学院での修士論文研究に取り組んだ際には、正解どころか、そもそも答えがあるかどうかわからない問題に遭遇した経験が幾度となくあったのではないでしょうか。答えがあるかどうかわからない問題・課題と立ち向かい、答えに近づこうともがき、チャレンジするのはとても勇気がいることです。なぜなら,もし答えにたどり着けなければ、あるいは、どんなに頑張ってもそもそも答えが無いかもしれないという不安に打ち勝つのは、容易なことではありません。

 しかし、自らの教育や成長・修行そのものに意味がある学生時代においては、たとえ答えに到達できない課題にぶつかったとしても、課題解決に向かう過程や費やした時間そのものに価値を見いだすことができます。皆さんは、学生時代に答えがわからない課題に遭遇した時の体験を、そこから必死に調べ・考え、研究室の先輩仲間や指導教員に相談してヒントをもらったりしながら課題解決へと向かった体験を、それぞれがきっと持っていて、それらを鮮明に思い出せると思います。それら学生時代の貴重な体験を、会社や次のステージで、経験値として大いに活かせるときが必ず来ます。

 一方で、今後皆さんが船出する一般的な社会・企業においては、目に見える結果や成果のみが問われる場合も多いので、「答えにたどり着けなかった過程や時間は無駄」と判断されてしまう可能性があることも、心に留めておいて下さい。

 さて、皆さんの大学在学期間中の大きな変化として、私たちの生活の多くの局面においてAIと関わる様になったことが挙げられます。以前からgoogle等での単純な検索については利用する機会も多かったと思いますが、一昨年辺りからのChatGPTに代表される生成系AIの普及により、利用へのバリアが一気に下がるとともに応用範囲が広がり、我々の生活周辺のあらゆる情報処理作業が飛躍的に効率化しています。

 大学での生成系AIの利用については様々な意見が出されています。教育研究の現場で、学生さんが安易に頼ってしまうことで本人の成長や能力向上には結び付かないのではないかと危惧する教員も居ます。授業においても、生成系AIを利用したかどうかが判断できないため、単純に成績評価のためのレポートを課す科目は、ほぼ無くなってしまいました。その一方で、使う側の意識さえ十分に高ければ、「これほど利用価値の高いツールは他にはなく、使わないのはもったいない」と考える人も多いでしょう。

 皆さんはこれまで大学において、単に高度な専門知識を蓄えるだけではなく、倫理面を含めて研究者・技術者としての研鑽を積んできました。その結果、生成系AIを使いこなすだけの素養・倫理観を十分に身に着けているはずです。これからも種々の革新技術を取り入れることを躊躇せず、うまく使いこなして、それぞれの分野での社会問題解決において活躍してほしいと思います。

 ただし、AIネイティブ世代においては、今やAIは「活用する」ものではなく、つまり情報を収集し参考にして自分で「決めるため」のツールではなく、自分で考えなくても「失敗しない」ように「決めてくれる」ツールに化けつつあること自体には警戒が必要です。例えばネット上では、フィルターバブルがより進んで、スマホ上にはもはや、もともと自分が持っている価値観・趣味嗜好に沿ったレコメンド情報しか表示されなくなってきており、もはや「検索」という能動的なアクション自体が絶滅寸前です。必要な情報の取捨選択、そして最終判断までのすべてをAIに任せてしまうことのないよう、肝に銘ずる必要がありましょう。

 さて、これまでの学生時代をいろいろな思いで振り返りつつ、これから新しいステージへと旅立つ卒業生・修了生の皆さんに、

『自立とは依存先を増やすこと』

という、ちょっとインパクトのある言葉を贈りたいと思います。

 普通に考えると「自立する」というのは「自分の力で何でもできるようになること」だと思いがちですので、この言葉はやや逆説的ですね。何でも一人でしようとする人よりも、上手に人に頼ることのできる人の方が、精神的に自立しているということ。支柱が多い方が土台は安定するということでしょうか。

 たしかに、世の中を見渡してみると「他人に上手に頼れる人の方が成功しやすい」ケースは多いのかもしれません。事業家とかビジネスリーダーも、自分の足りない部分を別の人の手を借りて補い、その分自分の得意なことにもっと集中している姿をよく目にしますね。一人で頑張るよりも、何かに困ったり、迷ったり、アイディアが欲しいときに、「あ、この人に聞けばいいんだ」と他人を信頼できるのはむしろ強みだと思います。ただ、何もかも安易に周囲に依存していれば信頼関係に問題が生ずる可能性も有りますので、バランスが大事ですね。適切な距離感を意識し、自分の責任を果たしながら必要な時に協力を求め、そして感謝することで、バランスの取れた関係が生まれると思います。

 最後になりますが、皆さんの周りにはたくさんの応援団、仲間が居ることを心に留めておいてください。本学の同窓生は皆さんも加えると既に述べ40000人に達しており、産業界・社会で実績を残して活躍している先輩たちが、皆さんを温かい目で見守っています。この方々も、先ほど述べた、自立に必要な「依存先」の一つかもしれません。この同窓生達の社会での活躍とそこからの応援、そして室蘭工業大学で共に学んだ皆さんの経験こそが、これからの皆さんの力となります。

 室蘭工業大学は、これからも皆さんと共に、日本のそして世界の輝かしい未来を築くべく、「真なる探究心から未来の価値づくりを。」を合言葉に、教育と研究そして社会への貢献を大きな柱として歩みます。皆様のご健勝とこれからの輝かしい未来でのご活躍を祈念し、学長告辞といたします。  

 万感の思いを込めて、卒業・修了おめでとう。

令和8年3月23日

                    室蘭工業大学学長 松田瑞史