令和8年度4月期入学宣誓式 告辞

 室蘭にも春が訪れた本日、ご来賓ならびに名誉教授の諸先生のご臨席のもと、令和8年度入学宣誓式を行いますことは、室蘭工業大学すべての教職員、学生にとって大きな慶びであります。

 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。また長年にわたり勉学の環境を整えられ、本人たちの努力を支えてこられたご家族ならび関係者の方々にも、心から敬意とご祝辞を申し上げます。

 本年度入学者は、理工学部学士課程の638名、編入学生39名、大学院博士前期課程238名、博士後期課程8名、合わせて923名の皆さんです。

 本年度の理工学部(昼間コース・夜間主コース)4月入学生の皆さんの出身高校から見た道内外の比率については、道外からの入学率が過去最高の43.4%であった令和5年度よりは低い32.8%となりましたが、それでも過去数年を通して増加傾向をキープしており、41都道府県という全国各地から入学いただいています。また、学部入学者中の日本人の女子学生の皆さんの人数も、過去最高の106名(17.0%)に達し、近年の増加傾向が続いております。海外からの留学生は学部に18名、大学院は10名、合わせて28名と、未だコロナ禍直前の50名台と比べるとやや少ない人数となっていますが、在学生も含めた本学の留学生諸君の総数については、この4月で156名となっており、教室に、研究室に、大学のキャンパスのあちこちにグローバルなダイバーシティにあふれた環境を有する大学となっています。

 さて本日は、現在本学が取り組んでいる教育改革などについてお伝えするとともに、皆さんが本学在学中にどのようなことを心がけるべきかについて、私からの期待を幾つか述べさせていただきたいと思います。

 本学は北海道、室蘭に位置する国立の理工系大学として、北海道の課題解決は、日本のさらには世界の課題の解決につながると考えて、教育改革・大学改革に取り組んでいます。

 7年前に工学部から改組した理工学部においては、ICTやAIの本質を理解して使いこなし、ものづくり・価値づくりに貢献できる学生諸君を育てる、理工系大学ならではの理数教育と情報教育を推進しています。全学必修の手厚い情報教育を行うことで、令和3年度からは文部科学省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」の認定を得ています。

 また、大学院博士前期課程(MC)においても、情報系の共通の必修科目、そしてコースごとにその特徴を活かした情報科目の充実を目指したカリキュラムとなっています。さらに一昨年4月には、情報電子工学系専攻内に新たに「共創情報学コース」を開設致しました。このコースは、「色々な専門分野と共に創る情報学」という、コース名が示すコンセプトの通り、情報学が異なる学問分野や専門領域を飛び越えて、様々な専門知識や方法論を組み合わせて昨今の複雑な問題に取り組み、新たなアイディアや解決策を生み出すことのできる学生を育成するコースとして設計されています。そのため、入学者の多くは、情報分野に限らない全ての理工学系諸分野学部卒業生であり、また先月晴れて第一期生としてこのコースを修了した学生さんたち54名についても、それぞれの学部時代の専門学修を活かす形で、産業界のすべての分野へと旅立っております。

 大学院博士後期課程(DC)においては、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の次世代研究者挑戦的研究プログラムの採択を得て、学生諸君の経済的支援や研究支援を大きく充実させています。このプログラムにおいては、分野トップレベルにある本学のコンピュータ科学分野と、建築土木、機械航空、電気電子、物理、化学、生物など様々な科学技術分野との、2つの分野を両輪とした異分野融合型の人材育成を加速させています。

 このように、いわば、「専門×情報」という分野融合型の高度な理工系人材の育成は、本学においては、理工学部、大学院博士前期課程(MC)、後期課程(DC)を通じた、一貫した育成方針となっています。

 本日、本学に入学された皆さん。ぜひ、このようなシステムのもと、世界で活躍する高度理工系人材の一員として育ってください。

 さてここからは、特に初めて大学に足を踏み入れたフレッシュマン・学部新入生の皆さんを念頭に、私からの思いを幾つかお伝えしたいと思います。

 申し上げたいことの一つ目は、学修面のことです。

 これから始まる大学生活は、ただ自由なだけではなく、これまでの自分から脱皮して、変身した別人格を形成するという重い意味を含んでいます。したがって大学における学修も、ちょっと大げさに言えば、今後の人生を支えるものであり、これからの社会生活を営むための基礎を形成するものであるべきです。単に知識を吸収するのではなく、それらを武器に、自ら成長しなければなりません。そのような思いを込めて、大学では「学修」という二文字も、「学び習う」と書く学習ではなくて、「学び修める」と書いて学修と表記します。先生に習うのではなくて、自分自身で学び修めるわけです。

 大学について国が定めたきまりである、大学設置基準には、「1単位分の授業科目には45時間の学修が必要」と定めており、その横に、「講義については15時間の授業で1単位とする」と書いてあります。1時間を実際には45分授業で計算するなど、ちょっといい加減なところは高校と同じですし、科目数を単位でカウントするという考え方も実は高校と共通なのですが、今まで皆さんは殆ど意識したことが無かったかも知れません。

 でもここでのポイントは、

 「1単位分の授業科目には45時間の学修が必要なくせに、実際には大学ではその1/3の15時間しか授業をしなくてもよい」

としていて、計算が合わない点です。残りの2/3の30時間は何かと言えば、予習や復習の時間です。つまり、「大学生は、授業の2倍の時間を自宅学習するものだ」と法律で決まっているともいえましょう。

 実際、私が学生であった頃の、40年前の昔の大学の講義は、完全にこの自学自習の家庭学習時間を前提にしていましたので、「大学の先生が講義で喋ることは、予習抜きで初めて聞いた時にはさっぱりわからん。」と相場が決まっていました。現在では、さすがにそのような講義はほぼ無くなっていて、多くの先生は高校の授業からの接続を意識して講義を行っていますが、もし万が一、幸か不幸か、来週からいきなり良く分からない講義に出くわしてしまったら、カルチャーショックを受ける前にこの話を思い出して、ちょっとだけ気合を入れて、その授業内容を復習してみてください。

 繰り返しますが、高校までの勉強がどちらかといえば受け身だったのに対して、大学における学修は、180度そのやり方を転換して、積極的・自主的に、自ら求めて行うものでなければなりません。是非なるべく早い時期に、できれば1年生前期の間に、今までの勉強の仕方からのギアチェンジを行ってください。そしてその後の卒業までの4年間は、知識を身につけるだけではなく、それらをどう使いこなすかについても、……実はその、知識を実際にどう役立てるかというところが理工学の真髄なのですけれども……、色々な体験を通して、数多く学んでいって欲しいと強く思っております。

 申し上げたいことの二つ目は、友人についてです。

 皆さんは、小学校、中学校、高校などで多くの人と出会ってきたと思います。その中に、これからも末長く付き合っていくであろう、あなたの友人は何人いるでしょうか。大学を卒業して、社会人になってから知り合う人はもっと多いと思いますが、その中で、あなたの友人になる人は、はたして何人いるでしょうか。真の友人、生涯の友人の多くは、利害関係の無い大学生時代の出会いに始まります。振りかえってみますと、私も、今でも未だ毎年やり取りしている約100通の年賀状のうち、だいたい1/3が大学時代からの友人です。

 学科コースが同じ、アパートが同じ、バイト先が同じ、いろいろな出会いがあり得ます。サークル活動での出会いもあるでしょう。サークルの仲間は、体育系であれ文化系であれ趣味が同じです。おまけに、生活の場所も、年齢や時代も、大脳皮質の能力までもほぼ同じです。悩んだとき、困ったとき、親身になって相談にのってくれるのが友人です。そんな友人を、是非、大学生活を通じて、獲得してください。

 三つ目は、大学院についてです。

 理工学部に入学したばかりの時期で、少々気が早すぎると思われるかもしれませんが、現在の日本の産業界、特に工学系においては、大学院MC修了者を優先した求人が行われているという実態があります。本日お手元にお届けしている大学院案内パンフレットにもあります通り、内閣府の調査によると、転職せずに勤務し続けた場合、男性は25歳、女性は26歳で学部卒業者と賃金が逆転し、差は拡大します。大学院での学費の分を考慮しても、大学院卒には学部卒に比べて、生涯賃金収入で5000万円程度の優位性があります。国や大学による、授業料免除制度などの学費のサポートシステムも徐々に充実してきておりますので、就職直後の経済状況だけに注目することなく、是非、本学の魅力ある大学院への進学も考慮に入れて頂きたいと思っております。

 申し上げたいことの四つ目は、……これが最後のひとつですが……、是非、大学生活を通じて、見えないもの「概念」への興味を育んでほしいということです。

 皆さんはどうして理工学系の大学に進学しようと思いましたか?ご存知のように世間では、「理科離れ」「科学嫌い」が進んでいると、声高に言われております。私の出身である電気電子工学系に関して言えば、卒業生の就職が非常に好調で、半導体産業に代表される、電気・電子・情報分野のみならず、その他の分野の企業からも引っ張りだこであるのに対して、世間、特に高校生へのアピール度は今ひとつであるらしく、ここ数年、2年次になる際のコース分属時の希望倍率も、残念ながらそれほど高い数字ではありません。IT人気に沸いていたひと昔前と比較して、教員は皆、危機感を抱いています。どうしてこうなったか、という理由についてはいろいろな意見がありますが、皮肉なことに、ITの担い手であった薄型テレビやコンピュータ、スマートフォンなどの携帯端末などの情報機器が発達し、身の回りにあふれた存在になったことの影響もある様に思われます。ハイビジョンテレビやスマートフォンなどに代表されるこれらの機器は、目を通して、実に豊かな視覚情報を与えてくれ、年々、空間領域と時間領域のビット数・情報量が、すなわち画素数やスムーズな動きが増加しています。人間の脳のなかで、目からの視覚情報を扱う視覚神経の数は数百万本あり、耳からの音声情報を扱う聴覚神経よりもちょうど2桁多いといわれています。いわゆる、一次元と二次元の違いですね。このような大量の視覚データが、生理学的には敏感期と呼ばれ脳神経が一番変化する時期である、若年期から青年期まで、若者に与えられ続けるとどうなるのか?まだ誰も知りません。もしかすると皆さんは、そのような洗礼を受けたサンプル世代なのかもしれません。

 私は、「大量の画像情報を一方的に受け取ると、目に見えるものがすべてになって、見えないものへの興味が育たないのではないだろうか」と密かに危惧しています。皆さんは、電車のなかでスマホやゲームに取り組む代わりに、目を閉じて何かを考えることを楽しいと感じられますか?そのような脳の回路を鍛えることこそ、大学生活において非常に大切だと思うのです。工学の原点はものづくりにあり、目に見えて、手で触れることのできるものが対象であるはずですが、学問の基本は、人の脳の中にある見えないもの、すなわち「概念」にあります。電子工学で扱う電子を直接見た人はいないし、情報は概念そのものです。数式はその背後にある論理性に意味があります。これに対し、物体がより重要である対象、例えば、ロボットやロケットなどは受験生に人気があるようであり、現代の若者の、目に見えるものへの志向性を示す例と思われます。

 実は、脳は目に見えているものを見ているのではなく、見ようとするものだけを見ています。ほかに注意が向いていると、目の前のものに気がつかなかったりするのは、そのせいですね。また、自分の記憶の中にある映像を投影して、現実の映像に重ねています。物体の一部しか見えないのに全体がわかったり、二次元の絵から三次元の形が見えたりします。脳はまた、大量の情報を忘れることができ、その中から必要なものだけを抽象化して、概念として記憶します。我々は、これらの高度な情報処理を意識することなく、頭の中で日々行っています。

 このようなことを考えると、大学生活を通じて、大量の画像情報を取捨選択して、情報のエッセンスのみを概念へと転換するような脳の処理回路を鍛えることが、とても大切だと思えてきます。

 青春は、人生に二度と繰り返すことはありません。その貴重な時間をフルに使って、一生の宝となる知識や経験とその活かし方を身につけて、後からこの時期を振り返って見て、「室蘭工業大学での時間が素晴らしかったな」と思えるような、大学生活となりますように祈っております。

  以上、新入生の皆さんに私からの大学生活での心構えと期待を述べさせていただき、入学宣誓式の告辞とさせていただきます。

                                                                    令和8年4月3日

室蘭工業大学長 松田瑞史