春分を迎えて春を感じ始めた本日、ご来賓並びに名誉教授のご列席のもと、学部卒業生、大学院修了生およびご家族の皆さまとともに令和6年度学位記授与式を行いますことは、室蘭工業大学にとりましてまことに慶ばしく、ご列席の皆さまと共に、この喜びを分かち合いたいと存じます。
今年は、理工学部になってから6年が経過し、第3期目の卒業生の皆さんが誕生しました。本日、晴れて学部を卒業し学士(工学)及び学士(理工学)の学位を得られた方は、335名及び215名で、合わせて550名。そして卒業生の中には外国人留学生が10名おられます。また、本学大学院を修了し、修士(工学)の学位と、博士(工学)の学位を取得された方はそれぞれ、231名と12名。そしてその修了生の中には、外国人留学生が23名おられます。
これら793名の皆さんの、学位の取得並びに卒業・修了をお祝い申し上げますとともに、皆さんの入学から今日まで、修学を励まし支えてこられたご家族並びに関係者の方々に、心からの敬意とご祝辞を申し上げます。
学位記授与式に当たり、皆さんがこれから飛び出す新たな社会について少し想いをめぐらし、私からの期待とメッセージを述べさせていただきます。
今年の理工学部卒業の皆さんの多くは、コロナ禍の2年目に本学に入学され、オンライン教育がかなり定着した環境下で大学生活を開始し、学習にそして研究に励まれてきたことと思います。必ずしも思い描いたものとは異なるキャンパスライフであったかもしれませんし、本日の卒業生・修了生の皆さん全員が、様々な困難を経験されたことでしょう。しかしこのコロナ禍の時期は、人々が集まることのできない制約の中での、通信技術の利用によるオンライン授業の展開や、遠隔からの国内外会議への出席、遠くの研究者・友人との交流など、これまでの平時では簡単には実現できないと思われていたことが、世の中で一気に実現した時期でもありました。この間本学においてもDXが進行し、リモートやオンライン環境下での教育・研究活動が一般的になりましたし、皆さんがこれから船出する先の産業界や社会においても、DXやAI技術が進化し、ニューノーマルでの活動形態があたりまえになっております。これからは、本学で培った対応力がより一層問われることになりますので、皆さんの困難に打ち勝つ力を是非、それぞれのフィールドで活かしていってください。
さて、今も少し触れましたように、皆さんの大学在学期間中の大きな変化として、私たちの生活の多くの局面においてAIと関わる様になったことが挙げられましょう。以前からgoogle等での検索については利用する機会も多かったと思いますが、昨年辺りからのChatGPTに代表される生成系AIの普及により、利用へのバリアが一気に下がるとともに応用範囲が広がり、我々の生活周辺のあらゆる情報処理作業が飛躍的に効率化しています。
大学での生成系AIの利用については様々な意見が出されています。教育研究の現場で、学生さんが安易に頼ってしまうことで本人の成長や能力向上には結び付かないのではないかと危惧する教員も居ます。授業においても、生成系AIを利用したかどうかが判断できないため、単純に成績評価のためのレポートを課す科目は、ほぼ無くなってしまいました。その一方で、使う側の意識さえ十分に高ければ、「これほど利用価値の高いツールは他にはなく、使わないのはもったいない」と考える人も多いでしょう。
皆さんはこれまで大学において、単に高度な専門知識を蓄えるだけではなく、倫理面を含めて研究者・技術者としての研鑽を積んできました。その結果、生成系AIを使いこなすだけの素養・倫理観を十分に身に着けているはずです。これからも種々の革新技術を取り入れることを躊躇せず、うまく使いこなして、それぞれの分野での社会問題解決において活躍してほしいと思います。
さて、これまでの学生時代をいろいろな思いで振り返りつつ、これから新しいステージへと旅立つ卒業生・修了生の皆さんに、
『あなたの「これから」が、あなたの「これまで」を決める』
という言葉を送りたいと思います。これは、宇宙物理学者で鈴鹿短期大学学長を務められた後、北海道美瑛町にて天文台長をされている、佐治晴夫氏の著書にある言葉です。『あなたの「これから」が、あなたの「これまで」を決める』。
どうでしょう?直感的には、なんだか逆で、過去の履歴が未来のありようを決めるのではないのか?と疑問に思われる方が多いかもしれませんが、「未来の行動や選択が、過去の価値や意味を形作る」と解釈すると、納得できるかもしれません。
過去の出来事自体は変えられませんが、それをどう捉えるか、どんな意味を見出すかは、未来の行動や選択によって変わります。例えば、過去の失敗も、それを糧に成功をつかめば、必要な経験だったと評価されるでしょう。今後の生き方や成果によって、過去の出来事に対する他人からの評価も自分自身の見方も変わるということです。たとえ挫折や困難があったとしても、それを乗り越える未来の姿勢次第で、過去が肯定的に輝きます。未来に向けてどう行動するかが、過去をどのように受け止められるかを決め、過去に対するストーリーを変えていくのです。
ザックリまとめると、「これからの歩み次第で過去の価値はいかようにも変えられる。大切なことは、何かを始めるのに良い時期、悪い時期というのは無い」ということです。思い立った時が最良の時なのだと思います。
最後になりますが、皆さんの周りにはたくさんの応援団、仲間が居ることを心に留めておいてください。本学の同窓生は皆さんも加えると既に述べ40000人に達しており、産業界・社会で実績を残して活躍している先輩たちが、皆さんを温かい目で見守っています。この同窓生達の社会での活躍とそこからの応援、そして室蘭工業大学で共に学んだ皆さんの経験こそが、これからの皆さんの力となります。
室蘭工業大学は、これからも皆さんと共に、日本のそして世界の輝かしい未来を築くべく、「真なる探究心から未来の価値づくりを。」を合言葉に、教育と研究そして社会への貢献を大きな柱として歩みます。皆様のご健勝とこれからの輝かしい未来でのご活躍を祈念し、学長告辞といたします。
ご卒業・修了、おめでとうございます。
令和7年3月24日
室蘭工業大学学長 松田瑞史