研究ニュース

化粧品と肌の研究を支える新たな光挙動シミュレーション技術を開発しました

室蘭工業大学大学院工学研究科の相津佳永特任教授と湯浅友典教授のグループは、株式会社資生堂みらい開発研究所との共同研究により、肌に入射する光のエネルギーを組織の到達深さ別に評価する新たな技術を開発しました。本研究成果の一部は、2024年3月発行の日本光学会論文誌「Optical Review」、および2025年6月開催のヨーロッパ生体医用光学会議で発表されました。 

研究のポイント

・肌に入射した光が再び外に出射する流れを描くシミュレーション技術を開発 
・複雑な肌組織を9種類の層で表現し、光の到達深さを評価する手法を実現 
・到達深さを新たな指標として、肌のメラニン量、コラーゲン線維密度の変化を捉える光エネルギーの動きを解明 
・化粧品開発を支える新たなツールとして幅広い応用の期待 

研究の概要

肌に当たる光が内部に浸透し、再び外部に出射する有り様を、数値シミュレーションにより可視化しました。特に、肌の複雑な構造を異なる9種の組織層で表現した独自の詳細数値モデルを導入したことで、これまで難しかった光の到達深さとその光エネルギーの振る舞いを数値的に評価できるようになりました。これにより、表皮や真皮に到達する光の深さを鍵として、メラニン量やコラーゲン線維密度の変化を捉える新たな手法を開発しました。 

研究の内容

光は肌組織(※1)に入ると、メラニンやヘモグロビンなどの色素による吸収やコラーゲン線維などによる散乱の影響を受けながら内部を伝搬し、再び外部へと射出します。このとき、光が到達する深さや伝わる経路は光の波長ごとに異なり、波長の短い青色光と波長の長い赤色光ではそのエネルギー変化が大きく異なります。 

私たちは構造が複雑な肌組織を図1のような9種類の異なる層で表現した独自の9層構造皮膚モデルを導入することで、100万〜1000万個の光子について、吸収によるエネルギー減少や散乱による移動方向の変化をモンテカルロ法(※2)で逐次記録するシミュレーションを行いました。これにより、図1の右側に示すような光の伝搬分布の可視化が可能になりました。青色光は表皮を浅く伝わり射出する一方、緑色光や赤色光は表皮下部の基底層から真皮上~中層付近まで到達することがわかりました。到達深さに着目したことで、表皮メラニン量の変化は主に青色光の、真皮コラーゲン線維密度の変化は赤色光のエネルギー伝搬に変化をもたらすことを明らかにしました。 

資生堂が独自に開発した格子パターン照射を用いた光学計測システム(肌内部伝搬光を画像化できる)に今回の評価技術を適用し、20代〜70代の約150名の女性を対象にデータ解析を行いました。その結果、表皮層に到達する光は表皮内メラニンによる吸収と強く関係し、真皮層に到達する光は複数の吸収と散乱が関係する中で、コラーゲン線維密度の影響も大きく受けることを確認しました。また、これらの現象が加齢に伴い特徴的に変化する注目すべき新たな知見が得られました。 

本評価技術と、それがもたらす皮膚パラメータの変化を捉える今回の知見は、化粧品開発を支える強力なツールとして、また関連する皮膚科学など幅広い分野で今後の応用が期待できます。 

図1.光の到達深さを調べるため、複雑な構造を有する肌組織を異なる9層で表現しました(左図)。格子パターン光を照射したときの非照射領域における戻り光をシミュレーションすることで、内部光子の挙動と光エネルギー分布の変化を捉え、深さ別の肌情報が評価できます(右図)。 

論文情報

論文名:Simulation study on penetration depth of light in the source–detector distance using a nine‑layered skin tissue model in the visible wavelength range 
雑誌名:Optical Review 
著者名:Tomonori Yuasa, Iori Kojima, Naomichi Yokoi, Kumiko Kikuchi, Yukio Yamada, Yoshihisa Aizu 
DOI:https://doi.org/10.1007/s10043-024-00877-5 

論文名:Simulation study on spatial distribution of diffuse reflectance detected near the slit illuminated area in skin  
会議:European Conferences on Biomedical Optics 2025 (Optica and SPIE) 
著者名:Tomonori Yuasa, Rei Nishimura, Iori Kojima, Kumiko Kikuchi, Naomichi Yokoi and Yoshihisa Aizu 
DOI:https://doi.org/10.1117/12.3098390 

参考

本件に関係する(株)資生堂のプレスリリース(担当:菊地久美子主任研究員) 
【日本語】https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/4117_m7o15_jp.pdf 
【英語】https://corp.shiseido.com/en/newsimg/4117_m7o15_en.pdf 

用語解説

※1 肌組織 
肌の皮膚組織は、一般に表皮層、真皮層、皮下組織の三層構造で考えますが、実際には極めて複雑なつくりになっています。光の伝搬は、光を散乱する組織の形態や大きさ、光を吸収する色素細胞などの分布状態に大きく依存します。その組織学的特徴に基づき、本研究では表皮と真皮をさらに細かくし、全体で9層に構造化しています。 

※2 モンテカルロ法(Monte Carlo method) 
シミュレーションや数値計算の手法の一つで,乱数を用いた試行を多数回繰り返すことで、確率モデルの期待値や分布、最適解などを推定する方式。解析的には解けない複雑な現象の解を実用的な精度で求める手法で、幅広く使われます。 

研究に関する問い合わせ 

室蘭工業大学 大学院工学研究科 特任教授 
相津 佳永 
E-mail:aizu@muroran-it.ac.jp 

報道に関する問い合わせ   

国立大学法人室蘭工業大学総務広報課秘書広報係
Tel:0143-46-5008
E-mail:koho@muroran-it.ac.jp