昨今、地方に行くと必ずと言っていいほど、使われなくなった家「空き家」を目にするようになりました。その処理を重要課題とする市町村も増えてきています。しかし、空き家はまちにとって本当に「お荷物」なのでしょうか。
建築専門の視点で空き家を捉えると、別の一面が見えてきます。使い方次第で、次のまちづくりの軸になっていく可能性も秘めているのです。

なんだか空き家が増えている気がする。その感覚は決して気のせいではありません。実際に空き家率(※1)は増加しており、総務省の最新データ(※2)では全国の空き家数は約900万戸、空き家率は13.8%と示されました。そして、野村総合研究所の推計(※3)では、2043年には空き家率は25%に達すると予測されています。
管理する人がいないと、家の老朽化は著しく進みます。倒壊の危険が増すほか、不法投棄も含めた治安の悪化、景観の低下などの原因ともなるため、各地で空き家が問題視されています。特に地方では問題が深刻化しがちです。人口の流出は、空き家率の上昇に深く関係しているからです。
しかし、「空き家増加の原因は人口減少と結論付けるのは尚早」と、建築計画を専門とする本学の真境名達哉教授は話します。「人口が少なくても、家が何らかのかたちで活用されていれば空き家率は上がりません。だから農村より、炭鉱都市や工業都市の方が空き家率が高いことも。基幹産業の衰退後に代わりとなる産業が起きづらく、人口流出後に残された家が活用されないからです。空き家増加のより根源的な原因の一つは、そのまちの産業構造にあるといえるでしょう」
空き家が増える要因はほかにもあると真境名教授は語ります。「固定資産税の問題、相続や売却の手続きの煩雑さなども要因の一つです。地方では売るための労力と得られるお金を天秤にかけた結果、放置する選択を取る人も多いようです」
さらに、売ろうとしても、不動産の仲介業者が少なく、情報発信やマッチングができずに諦めるケースもあるといいます。「空き家バンク」などの取り組みは各地で行われていますが、市町村ごとに力の入りようは違い、担当者が変わると運用が停滞してしまう場合も。空き家が生まれたときに、それを流通させるシステムが機能していないという状況が、空き家の増加をさらに加速させてしまうのです。
真境名教授は、空き家にも種類があると言います。「空き家は『壊さないといけない空き家』と、『直せば使える空き家』に分けられます。実は北海道にある公営住宅は、使える可能性を持ちながらも除却されてしまうという実態があるのです」
北海道の住宅は、本州とは異なる進化を遂げてきました。戦後すぐは本州型の木造住宅が主流でしたが、1953年に北海道防寒住宅建設促進法が定められ、寒冷で積雪の多い北海道の気候に適した住宅の建設が推奨されたのです。このときに数多く造られたのがコンクリートブロック造(以下、CB造)の住宅。当時は道内にコンクリートブロックの製造工場が多く、低コストでの建設が可能だったこともあり、公営住宅や社宅を中心に一気に普及しました。CB造には断熱性・気密性が高い、木造よりも丈夫、燃えづらいなどの特性があります。そして、前述の歴史を背景に、立地の良い場所に建てられていることも多いため、直して使うのも一つの手なのです。
真境名教授は実際に、CB造住宅の活用に取り組みました。真境名研究室と伊達市にある工務店が連携した「IKASUいえプロジェクト」では、豊浦町にある築48年の元町営住宅の長屋をリノベーションし、平屋の住宅に甦らせました。家は住む人があってこそのもの。住み続けたい、またはそこに住んでみたいという人がいるならば、空き家を活用することでニーズに応えられます。それはまちを元気にする好循環にもつながっていきます。
「道内のあるまちでは、町外や道外から教育移住をされるご家族が一定数いらっしゃると聞きます。ただ、アパートなどが少なく、不動産情報もあまり出てこないため、移住を実現できないことも多いようです。そうしたケースでは、空き家の活用がまちの活性化につながります。プロジェクトで得られた知見を活用し、地域の課題に貢献していけたらと考えています」
活用の道を模索する動きがある一方で、取り壊すという選択を取る市町村もあります。室蘭市は2016年、北海道初の行政代執行による空き家の解体を行いました。室蘭市の場合は市街地に空き家が密集し、周辺住民への被害が問題となっていました。活用よりもいかに安全に処理するかが重要であったため、解体に踏み切ったのです。
「倒壊の危険がある、景観を著しく損なう、周辺住民に悪影響を及ぼす可能性が高い。こうした空き家を『特定空き家』といいます。特定空き家の解体は、まちの新陳代謝を促す上で、適切な選択です。壊した後の土地を有効活用して活性化を図るなら、壊すことも一つの空き家活用の仕方なのです」
空き家の対処に関して何を正解とするかは、「住民・自治体の価値観や考え方次第」と真境名教授は考えます。
「利活用しやすい空き家もありますが、その一方で経年劣化も必ずあります。また、水道や電気などの設備は取り替えが必要な場合がほとんどで、それには当然お金がかかります。直してでも住むのか、もう少し費用を出して新築住宅を建てるのか。何がベターかは人それぞれでしょう。空き家を活用したまちづくりでも同じことが言えます。見方により、空き家は資源にも、廃棄物にもなるのです」
空き家のリノベーションや活用は日本各地で行われていますが、何のためにそれを行うかを見定めることが、まちづくりの観点から見て重要だと真境名教授は力を込めます。例えば、温室効果ガス削減に力を入れて取り組んでいる自治体であれば、温室効果ガスの排出を抑えられるリノベーション住宅の推奨を掲げることが、まちのブランディングにつながります。病院スタッフが地域の人手だけでは足りず、外から呼び込みたいという自治体であれば、その人たちに提供する住宅として、修繕して使う姿勢がそのまちの特長となるはずです。中古住宅ならではのつくりに目をつけ、元を活かして修繕し、レトロを売りにしていくと、また異なるアプローチとなります。
「専門家の観点でいうと、建築物の多様性を保持する意味で、北海道の歴史や文化が詰まった住宅には残っていってもらいたい」と真境名教授。「どういう人が住むまちか、どんなまちにしていきたいのか。そこを軸に、よりまちを輝かせる未来を描く中で、独自の発展を遂げてきた北海道の住宅が生かされ、新たな価値を持っていってくれることを、心から願っています」