研究ニュース

複雑な背景に埋もれたマイクロプラスチックの「種類」・「形状」・「分布」を瞬時に識別・観察する手法の開発に成功

室蘭工業大学 大学院工学研究科 趙 越 准教授は豊田工業大学 レーザ科学研究室 藤 貴夫 教授らと協力し、中赤外ハイパースペクトルイメージングを用いて、生体組織や混合試料の中に埋もれたマイクロプラスチックの「種類」・「形状」・「分布」を、分子固有の赤外吸収スペクトルに基づいて、広視野(約8.5 mm×11.6 mm)かつ高速(約8秒)に可視化・識別することに成功しました。本研究成果は、令和8年3月26日、学術誌「Talanta」にオンライン掲載されました。

研究のポイント

  • 複雑な生体組織中に広範囲で埋在するマイクロプラスチック(※1)を、中赤外領域(※2)の分子振動吸収(※3)を利用することで、非破壊で可視化・分類することを可能とし、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンなど複数種類のマイクロプラスチックの「種類」・「形状」・「分布」を同時に識別できることを示した。
  • 従来、数十時間程度を要していた、広視野にわたる中赤外ハイパースペクトルイメージング(※4)を約8秒まで大幅に短縮することに成功し、この技術の実用性を大いに高めた。

研究概要

本研究では、中赤外ハイパースペクトルイメージング技術を用いて、広視野にわたる複雑な生体試料中に存在するマイクロプラスチックを迅速かつ高精度に検出・分類する手法を開発しました。従来の顕微分光法では、視野が限定されるうえ測定時間も長く、広範囲の解析が困難でしたが、本手法では広視野イメージングと分光情報を統合することで、短時間での網羅的かつ非破壊測定を可能にしました。

研究の内容

研究グループは、プラスチックの種類ごとに異なる「赤外光の吸収のしかた」に着目し、それを手がかりに物質を見分ける新しい観察手法を開発しました。特に中赤外と呼ばれる光の領域では、プラスチックの分子構造に応じて特有の吸収パターンが現れるため、その情報に基づいて、プラスチックの種類を識別することができます。

本研究では、この性質を利用し、試料の広範囲を一度に観察し、物質の「種類」・「形状」・「分布」を同時に調べることができる「中赤外ハイパースペクトルイメージング」技術を構築しました。従来の方法では、1点ずつ順番に物質の種類を測定していく必要があり、広範囲を調べるには長い時間がかかっていましたが、本手法では一度の測定で広視野の情報をまとめて取得できるため、数秒程度で解析を完了することができます。さらに、本手法は試料を壊したり特殊な処理を施したりすることなく、そのままの状態で観察できる「非破壊測定」である点も特徴です。これにより、生体組織のような繊細な試料に対しても、構造を保ったまま、内部に存在するマイクロプラスチックを調べることが可能となりました。

図1はマウスの胚の組織切片の中に、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)という5種類のマイクロプラスチック粒子を埋め込み、それらを本手法で観察した結果です。それぞれのプラスチックを正確に見分けるとともに、「どこにどの種類のマイクロプラスチックがあるか」を広範囲にわたって一目で分かる形で可視化することに成功しました。

このように、本研究で開発した手法は、「広い範囲を一度に」「短時間で」「試料を壊さずに」解析できるという特長を併せ持っており、従来の分析法では難しかった複雑な試料中のマイクロプラスチックの分布を効率よく調べることを可能としています。

図1. マウス胚組織内に分散させた5種類のマイクロプラスチックの広視野・高速中赤外ハイパースペクトルイメージング結果。広い領域を一度に測定しながら、各プラスチックの種類と位置を同時に可視化。

広視野:約8.5 mm × 11.6 mm (空間分解能:数十µm)の範囲を一度に観察可能
顕微視野:約300 µm × 300 µm (空間分解能:15 µm(0.015 mm))も観察可能

今後の展望

本技術は、マイクロプラスチックがどこにどのように分布しているかを広視野かつ高速に把握することで、環境中や生体内におけるマイクロプラスチックの挙動や蓄積の傾向をより正確に理解することが可能になります。これは、マイクロプラスチック汚染の実態把握や影響評価の精度向上につながります。また、マイクロプラスチックへの曝露と健康影響との関連については、近年さまざまな研究が進められており、人体の健康との関連を示唆する報告もあります。特に心血管系への影響が指摘されているので、将来的には生体への影響解明に向けた医学研究において、有効な解析手法として活用されることが期待されます。

これまで時間や視野の制約により困難であった大面積試料の網羅的解析や、複雑なマトリクス中における分布の可視化への展開が見込まれ、今後は、さらなる高速化および検出感度の向上を図るとともに、より多様な試料への適用を進めていく予定です。

論文情報

論文名:Rapid identification of microplastics in complex biological matrices via high-speed mid-infrared hyperspectral imaging
雑誌:Talanta
著者名:Yue Zhao , Neil Irvin Cabello, and Takao Fuji (責任著者)
DOI:https://doi.org/10.1016/j.talanta.2026.129718

研究助成

本研究は、科学研究費助成事業 (25K00062, 24H00451)、および 公益財団法人 池谷科学技術振興財団 研究助成金 (0371214-A) の助成を受けて実施されました。

用語解説

※1 マイクロプラスチック
直径5 mm以下の微小なプラスチック粒子の総称であり、環境中や生体内への蓄積が懸念されています。本研究では、主に数十〜数百マイクロメートル程度のサイズの粒子を対象とし、生体組織中に埋在したマイクロプラスチックの検出・分類を行いました。

※2 中赤外領域
赤外線の中でも波長が約2.5〜20 µmの光の領域で、分子の振動に対応した吸収が生じるため、物質ごとに固有の吸収スペクトル(いわゆる指紋領域)を示します。この性質を利用することで、物質の種類を高精度に識別することが可能であり、化学分析や材料評価などに広く利用されています。

※3 分子振動吸収
分子の化学結合が特定の赤外波長の光を吸収する現象であり、物質固有のスペクトル情報として利用されます。

※4 中赤外ハイパースペクトルイメージング
様々な波長の光を同時に用いて、それぞれの場所でどのような光がどの程度吸収されるかを調べ、物質の種類とその分布を画像として可視化する技術です(ハイパースペクトルイメージング)。特に中赤外の光は、物質ごとの「光の吸収の違い」を示すため、高精度な識別が可能です。本研究では、この中赤外の情報を可視光として検出できるように変換することで、広い範囲を一度に高速で観察できる点に特徴があります。

問い合わせ

研究に関する問い合わせ 
室蘭工業大学 大学院工学研究科 准教授
趙 越
E-mail:zhaoyue@muroran-it.ac.jp

報道に関する問い合わせ
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